■障がい福祉サービスにおける就労選択支援事業について
こんにちは。行政書士浅井事務所の浅井順と申します。
本日は、障がい福祉サービスの新たな制度である「就労選択支援事業」についてご説明いたします。
1.制度の概要
就労選択支援とは、一言でいえば「自分らしい働き方を選ぶための支援」を行う制度です。
「自分に合った仕事が分からない」「働きたい気持ちはあるが最初の一歩が踏み出せない」――そのような方々に向けて、令和6年度障害福祉サービス報酬改定で新設された新しいサービスです。
障害のある方が、自身の特性や希望を整理し、将来に向けて適切な働き方やサービスを選択できるよう支援することを目的としています。
これまで、就労移行支援・就労継続支援A型・B型など、多様な就労系事業がありましたが、「どのサービスが自分に合うのか分かりにくい」「支援機関や学校の判断で進路が決まってしまう」「支援先が固定化してしまう」といった課題がありました。
こうした課題を解消し、本人の意思と可能性を尊重した就労支援を実現するため、厚生労働省は「就労前の段階的支援」として就労選択支援を制度化しました。
本事業は、主に就労継続支援B型事業所などが実施主体となり、支援員が利用者の希望・特性・能力などを整理しながら関係機関と連携し、次の一歩を共に検討します。
アセスメント・体験・相談・方向づけを通じて、利用者が自らの意思で「次にどんな支援や働き方を選ぶか」を考えられるよう支援します。
支援期間は原則1か月以内(必要に応じて延長可)の短期集中型であり、期間中に「自分に合った就労先やサービス種別」を明確にしていく仕組みです。
2.対象者
就労選択支援の対象者は、就労支援事業の利用を希望する方、または現在利用している方のうち、次のような状況にある方です。
・どの就労サービス(移行支援、A型、B型など)を利用すべきか判断が難しい方
・働く意欲はあるものの、生活リズムや体調管理などの面で準備が必要な方
・就職や他の就労支援事業を経験したが、改めて自分に合う進路を考えたい方
なお、令和6年10月以降、就労継続支援B型事業を利用する場合には、原則として事前に就労選択支援によるアセスメントを受ける必要があります。
年齢や障害種別による制限はありませんが、「働くことに関心がある」「将来的に就労を目指したい」という意思を持つことが前提です。
3.利用の流れ
利用希望者は、まず市町村窓口または相談支援専門員へ相談し、必要に応じて障害福祉サービス利用申請を行います。
申請が認められると受給者証が交付され、利用を開始します。
主な流れは次のとおりです。
・相談・申請
本人や家族が市町村・相談支援事業所へ相談し、利用希望を伝えます。
・アセスメント
事業所職員が本人の興味・適性・課題などを確認し、支援方針を立てます。
・体験・評価
他の就労系事業(移行支援、A型、B型など)の見学・体験を行い、自分に合う働き方を探ります。
・方向性の決定・次段階への移行
本人・家族・関係機関によるケース会議を経て、次に利用すべきサービスや進路を決定します。
支援内容には、職業興味検査、生活スキル評価、模擬作業体験、就労事例紹介、面談・相談支援などが含まれます。
また、ハローワークや地域就労支援センターなどの関係機関と連携し、将来を見据えた計画的支援を行う点が特徴です。
4.就労選択支援事業の実施要件
事業を実施するための主な要件は次のとおりです。
定員:おおむね10人以上
人員基準:
- 管理者を配置すること
- 就労選択支援員は、利用者15人に対して1人以上配置
- 個別支援計画の作成義務およびサービス管理責任者の配置義務はなし
- 支援員は「就労選択支援員養成研修」修了が必要(令和9年度末まで経過措置あり)
実施主体:
就労移行支援事業所、就労継続支援A・B型事業所、就労支援センター等であること。
また、過去3年間に3人以上の一般就労実績を有すること等が求められます。
5.事業運営上の留意点
就労選択支援を実施する上で、事業所として特に重視すべきポイントは以下のとおりです。
目的の明確化:
本人の希望や課題を丁寧に把握し、目的を共有したうえで支援を計画的に行う。
多職種連携:
相談支援専門員、家族、学校、医療機関、企業などとの連携を密にし、支援の一貫性を確保。
記録・引継ぎ体制の整備:
支援経過や評価内容を明確に記録し、次の事業所・機関へ円滑に引き継ぐ。
地域資源の活用:
市町村や地域就労支援センターなどと協働し、地域全体で就労支援を行える体制を構築する。
自己決定の尊重:
単なる「準備期間」ではなく、本人が自ら選択し主体的に進路を決められる支援とする。
ミスマッチ防止:
利用前に適切な情報提供や体験を行い、「思っていた内容と違う」といった早期離脱を防ぐ。
6.まとめ
就労選択支援は、「働きたいけれど自信がない」「自分に合う仕事が分からない」と感じている方に、安心して次のステップへ進むための準備期間を提供する制度です。
本人の希望と適性に基づいた支援を通して、就労への第一歩を確実に踏み出すことを目的としています。
今後は、地域の事業所、相談支援専門員、行政機関などが一体となり、利用者一人ひとりに合った「働き方の選択」を支援していくことが求められます。
以上、参考になりましたら幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今日も一日皆様にとって素晴らしい日となりますように。
